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June 22, 2022

蝶から発想を得た構造色を3Dプリンティング

雄のCynandra opis蝶の羽の近接画像
雄のCynandra opis蝶の羽の近接画像から、2つの格子状の層が垂直に積み重なった微細な構造をしていることがわかります。この「クロスド・ダブル・グレーティング」構造は、光と相互作用して青い虹彩を発色します。この構造色は、明るく高純度な虹色を色を3Dプリンティングするためのインスピレーションになっています。画像: チューリッヒ工科大学

自然界において、色は周期的なマイクロまたはナノ構造との光の相互作用によって生じます。Nanoscribe3Dプリンティング技術を用いて、世界中の科学者たちが、構造色を生み出すためのさまざまな方法を研究しています。Cynandra opisからヒントを得て、2光子重合法により直交格子構造を作製しました。この構造体は、可視域全体にわたって高純度の色を生み出します。また、構造色を示すさまざまな形状をマイクロスケール上に3Dプリンティングすることにも成功しました。

自然界では、この効果がさまざまな形で現れるため、構造色の研究に強い関心が寄せられています。例えば、蝶の羽は鮮やかな虹色の構造色であるため、特に注目されています。合成染料や顔料と異なり、構造発色には、輝度、角度依存性、退色抵抗性の安定性、環境への優しさなどの利点があります。Nanoscribeの2光子重合(2PP)をベースにした3D造形技術により、自然からヒントを得た構造色を精密かつ確実に作製することができます。2PPを用いた3Dプリンティングのサブミクロン領域までの優れた空間分解能を利用し、構造色の様々な構造パラメータへの依存性を実験的に調べることが可能です。

直交格子構造で蝶の色を模倣

Cynandra opis蝶の羽は、青い虹彩を放ちます。これにヒントを得たチューリッヒ工科大学のアンドリュー・デメロ教授率いる研究チームは、蝶の羽に含まれるこれらを模した直交格子ナノ構造を作製しました。この3D構造は、2つのグリッド層を垂直に積み重ねたもので、「クロスド・ダブル・グレーティング」構造とも呼ばれています。このような構造は、2つの回折面で構成されており、1つ目の回折面は稜線の配列、2つ目はその下に直交する稜線の配列で構成されています。この直交する面は、X方向とY方向の両方に光を回折させることができ、回折と干渉の複合効果により発色します。

3D造形したナノ構造による平面色

これらの観察結果に基づき、研究者らは、異なるパラメーターを持つ直交格子のナノ構造を設計し、3D造形しました。このようにして、入射角、周期、高さが構造体の色調に及ぼす影響を調べることが出来ました。稜線構造の周期や高さの違いは、色相や色純度に影響を与えます。構造体の造形に使用した透明基板により、研究者らは構造体を後ろから照らし、さまざまな入射角で発色効果を生み出すことに成功しました。回折格子の高さを一定にしたまま、第1面と第2面の回折格子の周期を変化させることで、可視域をカバーする平面に全範囲の色画素を生成することができました。このタイプの直交格子構造を用いて、1メートルサイズの画像を、ミリメートルサイズとマイクロメートルピクセルサイズのサムネイル画像にスケールダウンして造形することが出来ました。このような多色構造は、例えば、デジタル3Dディスプレイ、カラーフィルタリング、マイクロ画像ディスプレイのような高密度なデータストレージへの応用が期待されます。

構造色による3D形状

平面的な構造色から、構造色を反映した3Dの物体への移行は、まだ困難な課題です。しかし、3Dの構造色は、2Dの色の形成、制御、表示の自由度の限界を超えて開拓します。ウッドパイル型フォトニック結晶は、構造色を表示する3D形状を形成するための素材として使用できる有望な構造体です。しかし、これらの色はウッドパイル型フォトニック結晶(WPC)を上部から照射したときに発生するものであり、積層方向に沿って可視ストップバンドを実現するためには、全空間方向で500nm以下の構造解像度が必要です。このような構造を直接描画レーザープリンティングで製造することは困難です。構造解像度は、例えば、高度なシステムと新しい材料の使用、または熱収縮などの後処理工程によって向上させることが可能です。

2PPを用いた3D構造色のプリンティング

シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)、シンガポール工科デザイン大学、南洋理工大学の研究者らは、ウッドパイル型フォトニック結晶を用いて3D構造色を作り出す新しい方法について共同研究を行いました: 横方向からの照明によるウッドパイル型フォトニック結晶のバンド構造を理論的、実験的に調査しました。WPCの作製には、後処理工程とサブ波長の格子定数を造形する必要がないワンステッププリンティングプロセスを使用しました。Nanoscribeの2光子重合法を用いて、面内ピッチ(750~1,300nm)、面外ピッチ(900~1,400nm)の異なる様々なWPCを作製することができました。

ロッドの高さは380nm、幅は130nmです。この非常に小さなロッド幅により、WPCは明るい構造色の高い反射率を生み出し、最大で50%の反射率に達しました。その結果、青、シアン、緑、緑黄色、黄色、赤、紫と、幅広い色を反射するWPCが完成しました。この構造体が生み出す鮮やかな色は、sRGBの85%以上をカバーし、優れた色純度を示しています。

調整可能な色付き3D形状

研究者たちは、任意の色付き3D形状のプリンティングも検証しました。シンガポールを代表するマスコットキャラクターであるマーライオンと、3Dプリンティング機能のベンチマークとして知られる3DBenchyモデルを3D造形しました。これらの3D形状はカラフルで、3D形状の異なる部分の色を調整できることを実証しています。複雑な形状でも、面内ピッチと面外ピッチを同時に変化させることで、ヴォクセルレベルでの正確な色調整を実現しました。また、これらの構造体が反射する色によって、緩やかな色変化と急激な色変化の両方が可能になりました。今回の成果は、発色を利用したセンサー、カラーディスプレイ、発光デバイス、偽造防止などの分野において、3D自由曲面構造色の新しい応用を切り開くものと期待されます。

2光子重合による構造色の造形についての論文はこちらからお読みください:

Bioinspired "Cynandra opis" butterfly’s structural colors3D structural colors by 3D-printed woodpile photonic crystals

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Cynandra opis蝶で観察した発色構造を模倣し、3D造形した直交格子構造
Cynandra opis 蝶に見られるような色を反映し、3D造形した直交格子構造。色相と色純度は、構造体のパラメータを介して調整することができます。画像: チューリッヒ工科大学
構造色を示す3D造形したBenchy
横方向から光を当てると、造形した "3DBenchy "は異なる構造色を示すことが出来ます。これは、ウッドパイル型フォトニック結晶を構成要素として用いた効果です。画像: 科学技術庁(A*STAR)
造形した「3DBenchy」をよく見ると、上からウッドパイル型フォトニック結晶を示しています。
造形した「3DBenchy」をよく見ると、上からウッドパイル型フォトニック結晶を示しています。画像: 科学技術庁(A*STAR)
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