生体分子や生細胞のような微小物体を、どのように保持、操作することができるでしょう?この数十年の間に、光ピンセットは、粒子の捕捉や、単一分子間の微小な力および相互作用の解析を行うための科学のツールとして定着しました。光ピンセットのさらなる発展・小型化には、光ファイバと回折型マイクロ光学素子を統合する必要があります。そこで、シュトゥットガルト大学の研究者たちは、ファイバに2.5Dフレネルレンズや高精度積層型3Dレンズシステムを微細造形するために、2光子重合(2PP)を採用しました。
シングルセル解析用に微細化した光ファイバチップ
2.5Dフレネルレンズと積層型3Dデザイン
研究者たちは、作動距離が50、100、200 µmの3種類の光ファイバ粒子トラップを設計し、最適化しました。この光学レンズは、NanoscribeのPhotonic Professionalシステムを用いて、光ファイバの切断面に直接造形されました。3D造形光学デバイスの主な構造は、2つのパートで構成されています。1つめのパートは、光ファイバ内で導かれるビームを拡大するもので、目標とする作動距離とそれに伴う高い開口数を達成するために必要です。しかし、光ピンセットの主な要素は、精密に調整されたフレネルレンズです。これは、光を効率的に集束し、あらかじめ計算された位置で粒子を捕捉します。研究者たちは実際上の理由により、従来の球面レンズの代わりにこの回折設計を造形しました。屈折レンズをファイバ上に造形すると、非常に難しい曲率の設計になってしまいます。一方、フレネルレンズの設計では、望ましい作動距離と高い開口数へと容易に調整することができます。研究者たちは、ファイバ端に3種類の回折レンズを造形し、外縁部における最小の水平方向フィーチャサイズ1.67µm、プロファイルの高さを3.88µmに設定ました。
高開口数の光ピンセットでは、2光子重合(2PP)技術がその真価を発揮します。ファイバ端に1枚のフレネルレンズを設置しただけでは、高開口数を得ることは出来ませんでした。そこで、2枚のレンズを重ねて造形し、2枚目のレンズを支える6本の柱で分離しました。これは真の3Dプリンティングでなければ不可能です。すべての光ピンセットで、低いレーザー出力で(サブ)マイクロメートルサイズのポリスチレン製試験用ビーズを安定して捕捉することを可能にました。高いレーザー出力では有機サンプルの軟組織への損傷の可能性があるため、生物学アプリケーションにおいて、特に興味深いものです。
最適化された3D微細造形のためのダイナミック・プレシジョン・プリンティング
この非常に興味深い光ピンセットは、異なるプリンティングの方法を用いて造形されています。ビーム拡張部のプリンティングは、フレネルレンズのフィリグリー微細構造よりも低解像度が必要です。
2018年、アーサー・アシュキンは、光ピンセットとその生物学への応用により、ノーベル物理学賞を受賞しました。ここ数十年の間に、この画期的な技術は、生物学だけでなく、微粒子や極微粒子を補足、操作および定められた位置に配置する必要がある多くの理化学分野において、実に確立されたツールとなりました。またDNAの弾性など、最小の分子間相互作用や力を測定するためにも使用されています。光ピンセットの根本的な概念は、レーザー光の小さな吸引力と反発力によって、周囲の媒体とは異なる屈折率を持つ粒子を捕捉することです。
ファイバ上に造形された光ピンセット
通常、光ピンセットは、高い開口数の対物レンズなどの、通常かさばって、高額なセットアップが必要です。シュトゥットガルト大学の研究者たちは、二光子重合(2PP)を用いて、劈開した光ファイバ端面に直接造形することで、高効率の小型光ピンセットを開発しました。光ファイバ上に造形されたこれらの光トラップは、いわゆる対向伝搬デュアルビーム方式で配置されています。これは、光トラップが取り付けられた2本のファイバ端面が真反対に配置されていることを意味し、対向伝搬するレーザー光の2つの焦点が交わるところで粒子を捕捉することができます。研究者たちは、ファイバ上に造形された光ピンセットを用いて、水中の1µmおよび500nmのポリスチレンビーズを高効率で捕捉することを実証しました。
そのため、ファイバ上の最初のセクションでは、スキャン速度を速くして、スライスとハッチングのパラメータを粗くして造形します。一方、フレネルレンズの場合は、ライティングパラメータを最高の解像度に設定します。このように、印刷パラメータを対象物の機能に合わせて調整することにより、高精度の光ピンセットを1時間未満で造形しました。ちなみに、この方法は、異なるプリンティングモードを提供することで、ユーザーに精度と速度の完璧なバランスを提供する、当社のダイナミック・プレシジョン・プリンティングモードの基本的な考え方です。
Nanoscribeの技術が切り開く未来のアプリケーション
シュトゥットガルトの研究チームによる素晴らしい研究結果の鍵となるのは、光ファイバの端面に直接造形された微細加工フレネルレンズです。従って、2光子重合(2PP)を用いた微細造形で、2.5Dレンズの設計の繰り返しの修正や改良を容易にし、さらに、この技術は、複雑な3D積層レンズの微細造形も可能にします。Nanoscribeの新しいQuantum X shapeは、同様な、新しいイノベーションへの道を開くものです。この新しいシステムは、前述のフレネルレンズのような滑らかな2.5Dの光学的要素を実現する2光子グレイスクライブリソグラフィ(2GL ®)の革新的な技術と、自由形状の微細構造を前例のない精度で造形する3D機能を統合します。今後のより刺激的なニュースにご期待ください。
論文はこちらからご覧ください:Highly Efficient Dual-Fiber Optical Trapping with 3D Printed Diffractive Fresnel Lenses
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