光集積回路(PIC)を、フォトニックチップの外部にある他のコンポーネントと光結合するにはどうすればよいのでしょう?PICの導波路は、標準的なシングルモードファイバのコアよりも約1桁小さく、その結果、結合効率は1%以下になってしまいます。フォトニックチップの内部に光を導く微細構造化した光ファイバ上テーパ形状は、この問題を効率的に解決するソリューションとなります。
効率的で堅牢なモードフィールド変換のため、ファイバ上に造形したテーパ
フォトニック集積回路(PIC)は,複数のフォトニック機能を集積した小型の光プラットフォームであり,光コンピューティング,データ伝送・通信,医療分野のセンサー技術,LiDARによる自動運転などの用途に大きな可能性を秘めています。
フォトニック集積回路の分野では、異なるモードフィールド形状を持つ2つの素子間での光の効率的かつ堅牢な結合が課題となっています。光は通常、標準のシングルモードファイバ(SMF)を介して導かれますが、これらSMFのコアは、フォトニックチップ上の導波路よりも約1桁大きいものです。これは、小さなガラス瓶にバケツ一杯の水を入れることに匹敵し、漏斗がなければ、ガラス瓶を効率的に満たすことができません。
ブリュッセル自由大学のBrussels Photonics (B-PHOT)研究グループの科学者たちは、このフォトニクスのボトルネックを対処するため、二光子重合(2PP)を用いて光ファイバの平坦な端に導光路の漏斗を3D造形する研究を行っています。これらの漏斗は、フォトニックチップ上の導波路のモードフィールドに合わせて、SMFのモードフィールドを整合するためのテーパ型ビームです。さらに、これらの漏斗を反転させ、モードフィールドを拡大するアップテーパ型ビームを造形し、ファイバ同士の接続における厳しいアライメント公差を緩和するのに役立てています。
高アスペクト比のテーパファイバ端でモードフィールドを正確に調整
予備研究では、Nanoscribe社の2PP技術を用いて、モードフィールド整合用テーパをステップインデックス型ビームとして造形しました。SMFの平坦な端部に造形されたアップテーパ型、ダウンテーパ型ビームは、ファイバコアの延長です。これらの高アスペクト比構造は、240µm以上の長さにわたり、目的別のアプリケーションに合わせてモードフィールドを調整します。ファイバとチップの結合では、ダウンテーパ形状はフォトニックチップと物理的に接触し、基本モードの光強度の90%以上を伝送します。
アップテーパ型構造では、モードフィールドを拡大し、結合するファイバ同士の厳しいアライメント公差を緩和させることが目的です。ここでは、アップテーパ型構造は先端に向かって直径が大きくなるため、モードプロファイルが3倍増になり、ファイバ同士の結合部のアライメント公差が大幅に緩和されています。
微細造形されたの光ファイバ上テーパ形状
さらなる改良のため、ブリュッセルの科学者たちは、このモードフィールド整合用テーパを微細構造化した光ファイバ(MOF)として設計しました。これらの興味深い導波路は、ファイバの長さに沿って格子状の空孔をもつ単一材料でできた構造です。この空孔のデザイン配列を変えることで、MOFの光の伝搬特性を、偏光、モード分散、複屈折、非線形性などのパラメータに合わせて調整することができます。また、モードフィールドのサイズや形状も、これらの要素を用いて調整することができ、今回の研究ではまさにその点を研究しました。彼らは、モードフィールドを小さくする(ダウンテーパ型)ためのMOF構造と、モードフィールドを大きくする(アップテーパ型)ためのMOF構造を、光ファイバ端に直接造形しました。2PPを用いた3D微細加工の精度により、造形したテーパ形状の空孔の分布を最適化し、調整した光学モードを高効率で誘導することに成功しました。
この新しいMOFテーパ形状は、モードフィールド整合用テーパの性能をさらに向上させ、フォトニックパッケージングの実用化に一歩近づけます。
未来のイノベーションのためのフォトニックパッケージング
ベルギーの研究者達は、モードフィールド整合用テーパ形状によって、フォトニクスの分野で急務とされている、さまざまな光学システムにおける低損失の光結合とモードフィールド整合のためのソリューションに対応しています。しかし、これらの問題に対する解決策を積極的に模索しているのは、このチームだけではありません。
Nanoscribeは、インテグレーテッド・フォトニクスとフォトニックパッケージング・ソリューションをベースにした新技術を開発するいくつかのイノベーションプロジェクトのプロジェクト・パートナーでもあります。MiLiQuantプロジェクトでは、産業用アプリケーションのためのアライメントフリーおよびメンテナンスフリーの放射線源の製造を目指しています。さらに、EUが資金提供しているフォトニック・コンピューティング・プロジェクトPHOENICSでは、ミュンスター大学(ドイツ)がニューロモルフィックコンピューティングの世界的なリーダーを結集し、超広帯域でエネルギー効率の高いペタスケールの処理能力を実現しています。このプロジェクトの目的は、人工知能(AI)アプリケーションのための次世代コンピューティング・プラットフォームを実現するための破壊的手法を開発することです。
論文はこちらからご覧ください:3D direct laser writing of microstructured optical fiber tapers on single-mode fibers for mode-field conversion
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